取組企業へのインタビュー
従業員の体と心を親身に考える。治療、定年、子育て、様々な状況で安心して働ける職場と、それを支える制度活用
新潟市に本社を構える株式会社三ツ葉パーツは、1972年創業 自動車部品の専門商社です。時代の流れに合わせた働き方ができる体制を整え、次世代育成支援対策推進法に基づく認定(くるみん認定)や経済産業省・健康優良法人認定企業に認定されるほか、令和4年度の「働きやすい職場づくり推進企業表彰推進賞・新潟経済同友会特別表彰」に続き、令和5年度「新潟商工会議所特別表彰」を受賞しています。
具体的な取り組み内容や、背景にある想いについて、取締役室長の泉真紀(いずみ・まき)さんにお話を伺いました。
治療中、定年後にも働きやすい環境づくり
働きやすい職場づくりのために、取り組んでいることを教えてください。
泉さん:まず、病気の治療と仕事の両立支援に取り組んでいます。例えば、がん治療の抗がん剤投与で通常の勤務が難しい場合には、短時間勤務などにも対応します。そのために、就業規則にも明文化してあります。私自身ががんにかかった経験があるので、「今後、他の従業員も同じようになる可能性がある」と考えて、制度を整えています。
例えば、ある社員が退社した際、その理由は「大病を患っていた」からでした。ただ、その理由を知ったのは退職後のこと。辞める前に相談してくれたら、短時間勤務などの対策が取れたのですが、「会社に迷惑をかけたくない」と考えたのだと思います。その方が辞めた後にわかったので、「なんで相談してくれなかったのだろう」と非常に残念な気持ちになりました。
そういったことを防ぐために、会社の制度を刷新した場合には、その都度回覧を徹底し、周知します。それに加えて、誰かが休みがちであれば、さりげなく理由を窺うなどもしています。もちろん、プライバシーの点から慎重に対応することが必要ですが、こちらで察してあげることも大切だと思っています。
以前従業員がうつ病になった際、産業保健センターと連携して、復帰プログラムを作成しました。ただ、実際にその従業員はプログラムの準備途中で退職してしまいました。国の制度や法律について知らない人は多く、社会保険でもらえるお金や、制度などを理解していれば、少しでも安心できるはずなのに、それを知らないために、病気や心の問題で辞めてしまう人がいるんです。そういった時に、相談してほしいんです。
特に、今の若い人たちは親に相談しないし、友人にも深い話をしない傾向があるように思えます。そのため、病気や悩みを抱え込んでしまいがちです。誰に相談して良いかわからず、最終的に辞めてしまうケースは多い。でも、言った方が絶対に良いんですよ。周りの人も理解してくれますし、将来的には同じ病気になった人の相談を受けることができるようにもなります。
私自身、病気になったときは友人に話を聞きました。早期発見だったので大事には至らなかったのですが、もし従業員が同じ状況になったときにどうサポートできるかを考えるようになりました。
また、高齢者の雇用にも積極的に取り組んでいます。定年後再雇用のケースも多いですが、60歳を過ぎてから定年後、再就職してくださる方もいます。年齢を重ねても、電話応対や商品の受発注のスキルは衰えることがないですし、穏やかで癒しを与える存在になってくれる方もいて、貴重な存在です。
うちで最高齢の従業員は73歳で、この方は70歳を過ぎてもまだ働きたいと申し出てくれて、今はアルバイトとして契約し、体力に応じて勤務時間を調整する形で働いてもらっています。例えば、息子さんの扶養に入っていて、そこまで長時間働きたくないという方もいるので。柔軟な働き方が可能なため、定着してくれているのだと思います。
環境づくりのための制度活用
働きやすい職場づくりを実現する上で、どのような工夫をされていますか?
泉さん:助成金を積極的に活用しています。高齢者の雇用に関しては、高年齢者特定求職者給付助成金という制度があります。ただ、短期間の雇用ではなく、半年以上勤めることで15万円程の助成金を受け取ることができるので、会社としても、長く勤めてもらうために働きやすい環境を整えます。そうすることで、お互いWin-Winの関係性でいることができるんです。
他にも、育休についての取り組みも行なっています。昔は、パートさんは半期ごとの雇用契約で、子どもができると辞めるのが一般的。更新しないで契約満了という形を取っていました。でも、今は育児休業を取っても、国から育児休業給付金が出ます。会社負担ではないので、社員にとっても安心感がありますし、辞めてもらう理由がなくなります。それに、育休が終わって戻ってきた際には、再度両立支援等助成金を申請することも可能です。こういった仕組みをうまく活用すれば、長期で休む社員に辞めてもらう必要はなく、雇用を継続できます。
男性育休も、4年前に初めて取得した社員がいて、その後も育休取得率を上げ、今では全員が取得するようになっています。もちろん、営業所によっては「休んだら売上が減るんじゃないか」と心配する声もありますが、助成金を活用することでその分は補填することができます。育休を取りたいという話があった際には、まずは私を通して話し合いをすることで、1ヶ月休むのが難しい場合に15日ずつ2回に分けるなど、柔軟に対応しています。
そういった制度を利用するために、情報収集は欠かせません。厚生労働省のホームページや、新潟市の働き方改革ポータルサイトをチェックしたり、総務・人事・経理向けの年刊雑誌も購入しています。そこには役に立つ情報がたくさん載っています。また、ハローワークに行くたびにチラシを持って帰ったり、労働基準監督署で資料を集めたりもしています。
私がなぜそこまでするかと言うと、おそらくオタクなんです(笑)一つのことに興味を持つと、とことん掘り下げて研究しちゃうんですよ。
社内にそういった人がいない場合は、社労士に依頼したり、日経新聞を読むなど、常にアンテナを張ることで制度の活用につながるかも知れません。
就業規則も年に一度、12月に改定していますが、助成金の申請など、必要に応じて随時変更しています。手間はかかりますが、従業員が安心して仕事ができる体制を整えるためには必要なことです。
コツは従業員への根回し
社内で新しいことに取り組む際、どのようなことに気を付けていますか?
泉さん:うちでは、会議に提出する前に従業員に根回しするようにしています。例えば新しい制度を導入する際、具体的なメリットや金額をしっかり調べ、資料を作成して従業員に説明して納得してもらいます。その上で、2ヶ月に一度、各営業所の所長達と集まる会議があるので、言葉を尽くして提案します。ボトムアップの経営が良いとされることもありますが、それだと途中で止まってしまい、良い提案が上がってこないことも多いんです。ですから、上で細かいところを決めてから、「これはどう?」と従業員に根回しするスタイルを取っています。
バブル時代から始まっていた“職場づくり”の戦い
どのような経緯で“職場づくり”に取り組むようになったのですか?
泉さん:私は新卒として東京の大企業で働いてから、父の経営するこの会社に勤めることになりました。当時、バブルの時代で、30人程度の小さな会社でしたがとにかく忙しく、労働基準法や働き方全般に対して、意識が低い企業だったと思います。私が入社した際には小さな会社で、昭和一桁生まれの父は、法律に対しては十分な知識があるとは言えない中で、経営していました。私は「これは良くない」と感じて、20代の頃からエネルギーを注ぎました。そこで、まずは労働基準法や衛生管理の資格を取り、就業規則を整えました。
例えば、有給休暇は半年で10日もらえるということを従業員に説明・周知したり、会社のカレンダーを1年前にしっかり決めてお盆休みを計画的に取ってもらうようにしました。
新卒として働いていた大企業では従業員がしっかり守られていたので、最初は震えるほど驚きました。当時の従業員は、それを当然のことだと思っていたんですよね。私が「そうじゃないんだ!」と言ってもなかなか理解してもらえませんでした。
当時、父とは考え方が違ったので、数年かけて説得しました。ただ単に売上を減らすのではなく、効率を上げて生産性を改善することを目指したんです。
“おせっかい”というコミュニケーション
働きやすい職場づくりについて、大切にしていることを教えてください。
泉さん:コミュニケーションを大切にしています。例えば、うちでは元々フレックス制を導入していたのですが、浸透していなかったので、こちらから声をかけるようにしました。子育て中の契約社員に「あなたの仕事のピークの時間を考えて、出社をもっと遅くするのはどうですか?」と提案もしました。従業員から言ってもらうのが理想ですが、言いづらいこともあると思うので、こちらからおせっかいを焼いています(笑)。
今の時代は、会社と従業員がお互い介入しすぎないことが良いという風潮もありますが、コミュニケーションを取ることでより良くなるケースもあると思っています。私は“おせっかいおばちゃん”的な役割を果たして、解決できることはしてあげたいと思っているので。会社には、こういった存在も必要だと考えて行動しています。
企業情報
株式会社三ツ葉パーツ
1972年創業。新潟市に本社を構え、自動車部品の卸売業を営む。新潟県内に9カ所の営業所を構え従業員数は101名(2024年時点)