取組企業へのインタビュー

幸せは独り占めせずに還元していく。社員に寄り添った制度の見直しとコミュニケーション改善で利益率向上を実現。

新潟市中央区稲荷町で、土木工事や建築工事などの事業を展開する株式会社近藤組。新社長の就任に伴い、「風通しの良い会社」をつくるべく、全社的な見直しとコミュニケーション改善に取り組みました。その結果、令和3年度新潟市働きやすい職場づくり推進企業表彰優秀賞を受賞。取引先からも「雰囲気が変わりましたね」と言われるほどの変化の背景には、いったいどんな取り組みがあったのか。社長の百武伸晃(ももたけ・のぶあき)さん(写真右)、営業事務担当の大谷内沙弥(おおやち・さや)さん(写真中央)、営業担当の岡村聡人(おかむら・あきと)さん(写真左)にお話を伺いました。

環境を理由に退職する人を「ゼロ」にしたかった。

一昨年度の「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」の優秀賞を受賞されましたが、働き方改革に取り組むことに至った背景を教えてください。

百武さん:単純に、従業員がどんどん減ってしまっていたことです。入社してもすぐに辞めてしまうことが続いていてこれではいけないなと。一人ひとりに個性があって、得意分野の違うメンバーが揃ってこそチームだと思いますし、いらない人間なんていないじゃないですか。
だから、もう「この環境にいたくない」という気持ちでやめていく人をゼロにしたいと思ったのが、取り組みのきっかけでしたね。そこで私が社長に就任したタイミングで、会社の制度や働き方について見直しを始めました。

なるほど。社員のおふたりから見て、取り組み以前の職場にはどのような課題があったのでしょうか?

写真:岡村聡人さん(左)、
大谷内沙弥さん(右)

岡村さん:以前は残業が当たり前で体力的にも大変でしたし、なかなか現場の意見が通りづらいという状況がありました。「社員会議」という年に3回、40歳未満の若手社員で会社の課題について話し合える機会があったのですが、そこで「こうしてほしい」「こうしたい」と意見をあげてもいつも期待するような回答は得られず、半分諦めてしまっているような感じでした。

大谷内さん:休暇を取るにしても、今回の「新潟市働きやすい職場づくり推進企業」のような応募申請にしても、思うように進められないもどかしさがありました。

百武さん:社長の承認を得るのに時間がかかるから、結局申請を取り下げることも結構ありました。ただ、先代の社長も経営者としてひとりで重い責任を背負いながら、会社を守ろうと必死だったし、だからこそ不器用な部分が多かったと思うんです。そうした切ない気持ちを理解しつつ、私が社長交代してからはもっとみんなに頼って、お互いに助け合いながらやっていける会社にしたいなと考えていました。

制度とコミュニケーション両軸から改革を

百武さんが社長に就任されてからは、具体的にどういった取り組みをされていたのでしょうか?

百武さん:まず1つ目は、従業員自身が友達や身内に紹介したいと思えるような会社の風土を作らないとダメだろうなと。そこで行ったのは、残業や休日出勤の削減です。現場の事務管理の中でも特にボリュームのある安全管理の部分に投資し、電子化することで手間を減らしました。少しでも現場の人たちの負担が減るように、会議もリアルとオンラインのハイブリット開催にし、時間削減を図っています。 あとは、大谷内さんが言っていたように、今まで有給休暇を取得するのは、結構ハードルが高かったので、営業部は特に大変だったと感じます。

岡村さん:そうですね。だいぶ厳しかったです。

写真:百武伸晃さん

百武さん:それを、今は「いつでも取ってね」と会社側から声掛けするような形でいつ休んでもいいんだという空気を作るようにしています。あとは、やはり従業員の幸せという点でも大きな要素になる所得です。 2つ目は、賞与についてです。今まで賞与といってもお小遣い程度だったものを、最低でも年に2回、1ヶ月分は必ず出すことを宣言して、よほどのことがない限りはカットしないと従業員に約束しています。賞与はすごく大切な所得の一つですし、これをあてにできない会社は楽しみがないのかなと思っています。

現実問題、賞与は社員の皆さんのモチベーションにも繋がる大きな要素ですよね。社内のコミュニケーション面に関してはいかがですか?

百武さん:まずは、風通しの良い環境づくりを意識しています。たとえば、若手社員が集まる「社員会議」であがった意見には、全てに対して一つひとつ丁寧に回答を出すようにしました。基本否定はせずに受け止めて、できることは実現させるようにしています。そうすることで、従業員たちが発言しやすい環境になるように心掛けています。

百武さんが、現場社員の方たちと直接コミュニケーションを取る機会も多いのでしょうか?

百武さん:はい。なるべく気軽に話しかけてもらえるように意識しています。私は「罪を憎んで人を憎まず」という考え方なんです。仕事をやっていれば問題や失敗は起こるものなので犯人探しをして責めるのではなく、起きた環境の方を改善していこうという考えを推進することにしています。だから基本的に叱ることはしません。

怖いオーラを出していたら、そういったマイナスな報告もしづらいし、隠してしまうかもしれないですよね。そんな環境ではダメだと思いますし、何かあっても対処するのが社長である私の仕事なので、いつでも話しかけやすい雰囲気を作っておくように意識しています。

特に土木や建築の現場は安全第一ですから、日頃のコミュニケーションがきっと大切ですよね。

百武さん:そうですね。他にも、コミュニケーションにおいて「外的コントロールの排除」を意識するように、役職のある従業員には伝えております。いわゆる「あれしろ」「これしろ」という命令や、人の考え方を変えようとしたり、自分の思い通りに動かそうとしたりすることですね。そういった押し付けを排除していくことで、会社のホワイト化を図ろうとしています。

取り組み開始から1年で、目標を達成。

社員の皆さんを大事に思っていらっしゃることがよく伝わってきました。改善の取り組みを進めていくなかで、何か苦労したことがあれば教えてください。

百武さん:私自身、こうやって会社の風土を変えるには3年はかかるんだろうな、なんて思っていたんです。でも、びっくりするくらい早く変化が現れて、当初設定した有休取得率向上や残業時間削減などの目標を1年で達成することができました。それだけ、皆さんが待ち望んでいた環境なんだなと。

岡村さん:本当にあっという間でしたね。

百武さん:あっという間に雰囲気が柔らかくなったよね。社外からも、「近藤さん(※株式会社近藤組)のところの人は明るくなったね」と声を掛けてくれたりして。従業員も本当に一生懸命頑張ってくれているので、感謝しかないです。

経営視点でも手応えはありますか?

百武さん:手応えはかなり感じています。わかりやすいのは数字で見える利益率です。私自身もとにかく目標を達成できるように動いていましたし、皆さんもそれに賛同して行動してくれたおかげで、想定以上にいい成績が出ました。利益が上がった分は従業員全員に還元して喜びを分かち合いたい、と思っていたので、1年目でそれを叶えられたのがすごく嬉しかったです。

社員のおふたりから見ても、変化は感じますか?

写真:岡村聡人さん

岡村さん:間違いなくがらっと変わりました。今までだとできなかった話も気軽に話せるようになりましたし、仕事がしやすい環境になったと思います。

私自身の働き方としても、今までは仕事をもらってきたらあとは現場の方たちに投げるだけだったのですが、新体制になってからは、自分で取ってきた仕事を最後まで管理することができるようになりました。それにより現場の方の大変さを理解することができ、良い経験になったと思っています。

百武さん:今までは営業は営業、現場は現場で分けられてしまっていて、現場の苦労がわかる営業担当はいませんでした。だから今、岡村くんがその架け橋になってくれていてありがたいですね。

大谷内さん:社長は会社にプラスになることであれば、私たちに一任してくださるので、何も許可を得ずにさせていただいています。今回の「新潟市働きやすい職場づくり推進賞」も私が申請したのですが、社長には事後報告でした。

百武さん:「そうなんだ、いいね」みたいな感じで、大谷内さんをはじめとした従業員たちが実際に働きやすいと思って「認定を受けられるんじゃないか?」と行ってくれた話だったので良かったです。

写真:大谷内沙弥さん

大谷内さん:今は育休も取りやすいですし、子育てをしながら働きやすい環境にもなったと思います。私も2回取らせていただいていたのですが、こうして今も復帰して働いていますし、むしろ働きたいと思うほど、今の職場の居心地がいいなと感じています。

特別休暇制度として「子の看護休暇」も有給で年10日間取得できると伺いました。

大谷内さん:はい。私も何度か取らせていただきましたが、朝会社に来て「子どもをちょっと病院に連れて行きたいんです」と部長に一言伝えると、「おお、行ってきて」と、その一言だけでとてもありがたいですね。

新しい挑戦を続け、持続可能な会社づくりを

では最後に「働き方」というテーマについて、今後の展望を教えてください。

写真:百武伸晃さん

百武さん:私はSDGsへの取り組みも、結果的に従業員を幸せにすることに繋がると思っているので推進していきます。企業が適正な利益を取って発展していける状態をつくることで、従業員もきちんと潤って、また社会のお金を回していく。他社と競争するにあたっても、そうやって持続可能な状態にしていかなければいけないと。最近は不動産という形で、社会貢献できる事業にも少しずつ挑戦しています。可能であれば従業員の退職金や賞与も増やしたいので、常に上を目指しながら福利厚生は充実させていきたいですね。 社内の人間関係やコミュニケーションもかなり改善したとはいえ、社内全体で「変わった方が得だな」と現実的に思ってもらえるような声掛けをしていきたいと思っています。それによって、当社に関わる全ての方たちに優しさを伝染させていきたいです。

得た幸せはどんどん周りに還元し、循環させていく。とても素敵な姿勢だと思います。おふたりはいかがですか?

大谷内さん:社長もおっしゃったように、建設業界もICT化など新しい流れがどんどん増えてきているなかで、それについていかなければならないなと。現場の人たちとコミュニケーションを取りつつ、総務の方に舞い込んでくる新しい提案をみんなで協力しながら進めていきたいです。新しいことに挑戦していけば社内のチームワークも向上しますし、会社全体もさらに上を目指していけると思っています。

岡村さん:社長自らが動いていると、私達も動きやすいというか。「こんなことも試していいんだ」と思えますし、頑張れば頑張った分だけ個人に還元していただけるので、私自身もさまざまな業種の人と関わりを持って、新しいことに挑戦していきたいと思います。

百武さん:挑戦が大切。誰も未来のことなんてわからないので、やりたい人がいるならどんどん背中を押していこうと私は思っています。

理想は、「この会社すごいな」って言われるぐらいにはなりたいですね。建設業の中で「従業員満足度ナンバーワン企業」になることも一つの目標ですし、建設業のイメージを変えていくためにも、身をもって示していきたいと思います。

企業情報

株式会社 近藤組

昭和14年創業。新潟市中央区稲荷町にある総合建設会社。土木と建築を中心に事業展開し、学校や公民館などの公共建築物をはじめ、上下水道や道路の整備など生活環境の基盤づくりを担っている。最近では、SDGsへの取り組みを積極的に行い、不動産賃貸を通じて、障がい者用のグループホームなどの建築にも携わる。現在52名の社員が在籍中。