取組企業へのインタビュー

働き方改革、健康経営、幸福経営を組み合わせ、社員の多様化に対応

株式会社シアンスは新潟市中央区でシステムコンサルティングやシステム開発、※¹ニアショア開発、Webマーケティング事業を手がけるIT企業。2006年に「働く社員一人ひとりが最大の財産である」との考えから経営上の重要課題として「働き方改革」をスタート。その後2018年からは「健康経営」にも取り組み、2018年度「新潟市働きやすい職場づくり推進賞市長賞」を受賞。さらに2022年から「幸福経営」を取り入れ、2023年度「新潟市働きやすい職場づくり推進賞一般社団法人新潟県経営者協会特別表彰」を受賞しました。

職場改革を意欲的に推進してきた代表取締役社長の野口一則(のぐち・かずのり)さんに、取り組みの背景や成功の秘訣を伺いました。

 

※¹システムやソフトウェアなどの開発業務を地方都市へ移転すること

「時間あたりの生産性向上」に着目し残業時間削減・利益率向上を同時に実現

2006年にスタートした働き方改革はどのようなものでしたか。

当時のIT業界では長時間労働が常態化しており、当社でも毎晩夜遅くまで働くことが続いていました。その結果、体調を崩す社員や、仕事と生活を両立できなくなって退職する社員が続出。経営の危機を感じ、「働き方改革」に着手しました。

はじめに取り組んだのは長時間労働の是正です。大手企業から再委託を受けることが長時間労働の一因になっていたため、顧客と直接契約できる事業への転換を決意。2008年から新たにWebサイト制作事業をスタートし、2014年からはニアショア開発事業に参入しました。

重視したのは「時間あたりの生産性向上」です。わかりやすく言うと、1か月間業務を行った際に50万円の売上をあげるよりも、7080万円の売上をあげる方が生産性が高いということになります。そうした観点で顧客や取引先について全面的な見直しを行なっていきました。もちろん、並行して作業効率向上に向けたマニュアルの見直しなども行なっています。そうした取り組みの総合的な結果として、残業時間の大幅な削減と利益率向上、両方を実現することができました。

事業の見直しを含めた大きな取り組みだったのですね。どのように実現されたのでしょうか。

事業全体の見直しとなると、経営トップの判断が必要です。「働き方改革」を重要な経営課題と捉えて、すべてトップダウンでスピード感を持って進めてきました。ボトムアップであれば、方向性の検討や調整などに時間がかかったでしょうし、思い切った改革ができなかったかもしれません。

多様性を前提にさまざまな働き方を創出

どのような考えで働きやすい職場づくりを進めてきたのでしょうか?

年齢・性別に関わらず、働き方について社員の多様化が進んでいます。たとえば家庭生活を中心に考える社員、仕事を一生懸命やりたい社員、子育てに重きをおいている社員、さらに当社の場合はアスリートとして仕事と競技を両立している社員も。「人によって求めている働きやすさが違う」という前提で、さまざまな働き方のできる職場づくりを進めていくことにしました。

1つは、2007年から導入した裁量労働制です。「9時から18時まで」という制約を取り払って、与えられた仕事に対して各自が時間をコントロールして働けるようにしました。また裁量労働制では深夜以外の時間外手当がつかないことから「早めに仕事を切り上げよう」と考える社員が増加。全体的な労働時間削減にもつながっていると思います。

有給休暇については「取得しやすいムードづくり」を行いました。希望があった場合、余程のことがない限り承認する形です。その結果、2012年度に48%だった有給休暇取得率が2022年度には91%まで上昇し、現在も高い状態を維持しています。

テレワークによる在宅勤務はコロナ前の2012年から採用しており、とくに育児中の社員が自宅で働いています。パート社員も在宅勤務で働いている方が多いです。加えて2014年からは男性社員の育児支援を始め、育休取得や育児のための短時間勤務を積極的に活用できるようになりました。男性でも女性と同様に6時間勤務を選択することができ、約2年間短時間勤務を行った男性社員もいます。

体力に応じて参加できるイベントで運動の習慣化を支援

IT業界ではデスクワークが多いと思いますが、健康への取り組みはどのように行っていますか?

当社では2018年から「健康経営」にも着手しており、デスクワークによって起きやすい運動不足や肩こり、腰痛などの対策にも取り組んでいます。取り組みの1つ「シアンス・ウォーク」という歩数を競うイベントは春と秋の年2回開催。期間中にウォーキングを続けた参加者全員へのクオカード贈呈や、部門対抗戦の導入など。長く続けられるように、常に新しい企画を取り入れてマンネリ化防止に努めています。

一人ひとりの体力差にも配慮していて、全員一律で競争するのではなく、5つのコースを用意。初めて参加するコースから1日1万歩以上歩くAコースまで、それぞれのコースで競い合っています。

各コース上位3名を全社会議で表彰しており、表彰者に達成感を感じてもらうとともに、イベントが認知される機会にもなっていると思います。自由参加のイベントですが、2024年春に開催した第10回では、社員60名のうち40名が参加してくれました。イベントを継続することで、ウォーキングを習慣にする社員が増えていることを実感しています。

働きやすさを追求し社員と社会にとってより良い会社を目指す

働きやすい職場づくりに取り組む中で、社員のみなさんに変化はありましたか?

長時間勤務の是正、柔軟で多様な働き方の導入、有給休暇取得の推進、健康経営などに取り組む中で、社員同士、困ったときは「お互いに支え合おう」との助け合い精神が生まれてきたように思います。働きやすい職場づくりによって、職場風土が自然と変化していったのではないでしょうか。

今後の展望を教えてください。

当社では2022年から社員一人ひとりの幸せに焦点を当てた「幸福経営」の取り組みを始めています。働きがいのある職場をつくることで、最終的には社員の幸福につながっていくものだと思います。そして社員が豊かな生活を送り幸福を感じられるようになると、仕事の生産性が高まることもあるのではないでしょうか。そのような未来を描き、社員と社会、両方にとってより良い会社を目指していきたいと考えています。

企業情報

株式会社シアンス

1989年設立。システムコンサルティング、システム開発、ニアショア開発、Webシステム・アプリ開発、Webサイト制作を行う。従業員数は60名。うち20名が女性(2024年10月時点)。